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手仕事について

椅子作りのこだわり
家具の中でいすは、作るのも、見るのも、使うのも好きです。また、知れば知るほど奥の深いものです。
まず 椅子は、座り心地が良いというのが第一条件です。使い良い物は、安定感があり、安心感があり、見ていても心が安らぐ美しい形を持っています。仕事や勉強をする時、食事をする時、サイドテーブルを横に置きゆっくりコーヒータイムを楽しむ時、座ったまま眠ってしまいたい時、等など、それぞれ自分にぴったりで気に入った椅子がある生活なんて、とても楽しいと思います。
私の作る、座面をい草やがまの茎で編んだ椅子は、ゴッホの椅子が有名ですが、スペイン南部アンダルシア地方のジプシーの椅子やイギリスの湖水地方などヨーロッパでは、今でもポピュラーな椅子です。日本ではお蕎麦屋さんや飲み屋さんで、なじみがある方もいると思います。日本のそれは、い草を機械で縄をなうように2本を寄り合わせたものを使っています。これは手仕事で、束ねて一本にねじって編み進む方法と比べてすぐに緩んでしまいます。私の使っている七島い(しちとうい)という草は、使っていると張り艶が出てきて、柔らか過ぎもせず硬過ぎもせず、程よい弾力を長年保ちます。不思議な素材です。
薪割りの途中、「この木であの椅子を作ろう」と思い立ったのが私の椅子作りの原点です。出来てみると、頑丈で素朴な趣があり、楽しいデザインのいすがそこにありました。直径3cmから20cm位までの細い木は、森林内ではほとんどは、やがて生存競争に負け、土に返っていく運命の木です。また、パルプの原料としてチップにされる木や、用材をとったあとに残された枝など、短いサイクルで再生可能な小径木を利用して、こんなに楽しい、人に一番近い家具が出来るんだという事も、自分の生き方、考え方にもぴったりはまりました。それからはこの椅子作りがとても楽しく、好きになりました。
座り心地と頑丈な作りを追求し、試作を重ねやっと人に勧められる椅子が出来てきました。椅子での生活の歴史が、日本でも進んできて、いろいろな形、デザイン、作り方がありますが、私は、時代に流されることのない、日本の風土に合った、自然に近く無理のない、座り心地の良い椅子を作り続けていけたら、こんなに楽しいことはないと思います。

■あの椅子というのはこの椅子のことです。スペインを旅したある日本人が、この椅子に出会い、記事を美術雑誌にのせ、その写真と記事を見た柿谷さんが、10年も経ってから、この椅子と会うためにスペインに行き、写真と文章を自分の本に載せたのです。その本を見てとても感動し、影響を与えられた人も多くいるはずです。私もその中の一人で、私の場合そのまま同じように、椅子作りをしていくのが夢です。いつか、近い将来私もスペインを旅して、自分の原点を自分の目で確かめたいと思っています。今でも同じように作り続けられていることを祈って。

あの椅子について
大学時代にたまたま寄った百貨店で、手作り家具の展示会をしていました。KAKI工房(家具にたずさわるか、興味のある方の間ではかなり名の通った手作り家具工房です)でした。展示されている家具に衝撃を与えられました。その時に買った本の中にこの椅子の写真(上)と説明があったのです。以下、一部引用させていただきます。
[南スペイン・グアディス村のいす]
「やっとさがしあてたその家は、私の想像していたのとはまるで違い、ごく普通の石造りの家に白いペンキを塗った小さい民家でした。小さい窓から細く一本の強い日差しが暗い土間にさしこんでいて、いっぱい積み上げたイスのそばで女が二人、シートを張っていました。そして主人が服に木屑をいっぱいつけて奥から出てきました。私の夢見ていたイスはここで二組の夫婦によって細々と作られていたのです。主人のほうはナタを器用に使ってイスの脚や背を作り、相棒は脚に穴をあけ、できた部品に接着剤をつけて組み立てていきます。直径40cmほどの丸太を半分に割って簡単な脚をつけた仕事台の上に脚をおいて、首から皮ひもで板を胸のあたりにつってハンドドリルの頭をその板で抑えながら、一気に穴をあける。穴の開いた脚に棒をさしこんでハンマーでたたき込む。太すぎる棒はトントンと仕事台の上でハンマーでたたいて細くする。穴をあけて組みあがるまで15分間ほどしかかかりません。できあがるとなんとも自慢げな笑顔を私に見せました。夢中で見ている私の前で、みるみる四本のイスができあがりました。細い細い柳の木だけを材料にして、道具はナタ、ノコ、ドリルにハンマーだけでこれほどまでに美しいイスが作られるのです。仕事は実に粗いのですが、何千本、何万本と同じイスを作りつづけた職人の手が、てぎわよく作っていくのです。バックレストは三本の鳥の羽のように軽やかですし、下に入る八本の棒は細く長い葉っぱのようです。できあがったイスは一本一本少しずつ大きさもかたちも、脚の角度も違います。とってもおかしな疑問だけれど、どうしてこんなにも美しいものができるのか、私には今でもわかりません。自由という言葉はこのイスのためにあるのではないかとさえ思います。そこで買ったイスは今も私の家で毎日使われています。乾燥しきったスペインの山の中で作られて、雪深い日本の山の中で使われているなんて、なんとも素敵なことです。私の気持ちも、グアディスの二組の夫婦のように、愛する女と気の合った仲間と、静かに、自由で、大らかな家具を作りつづけたいと思っています。」
このような文章です。途中いくらか割愛させていただきました。
KAKI工房のホームページを見て、柿谷誠さんが他界されたと知りました。私にとってとても大きな存在で、ショックも大きく、残念でしかたありません。いろいろ与えて下さってありがとうございました。ご冥福をお祈り申し上げます。

ゴッホの椅子を再現
下記のようなメールをいただきました。恥ずかしながら、私はゴッホの描いた、ゴッホの椅子という題の絵画を知りませんでした。ただ、ゴッホの描いた自分の部屋の絵画の中で、私の作っている椅子とそっくりのものをみつけて(これも、もともとは友人が、これって英三さんの作っている椅子とそっくりじゃない?と言って、この絵葉書を持ってきてくれました。)ゴッホの椅子と自分勝手に決めつけていました。インターネットでゴッホを調べ、ゴッホの椅子という絵にたどり着き、まさに自分作っている椅子そのものだ、自分の原点を再確認できる。と、ふたつ返事でこの依頼を受けることにしました。それにしても、中学生の頃にこの絵を見て、この椅子が欲しくて欲しくてたまらなかったと言う感性はすごいと思います。自分のことを思い出してみると、ムンクの"叫び"を美術の教科書で見て、オーッ気持ち悪い、こわーい。と思ったのを思い出すぐらいで、なんと単純な感性してんだと悲しくなります。今までの自分の作品と、ゴッホの椅子の絵とご希望を元に、デザイン、サイズ、材質を検討し、まずは試作する。という方法で作り始めました。試作するとわかることが無数に出て来て、次に作る時には容易に、思ったことを形にできるようになります。2脚目で、満足のいく椅子が出来上がりました。この依頼のおかげで、ゴッホについて調べ、ゴーギャンとの関係や苦悩等自分なりに感じたり考えたり、私の原点である、この絵の中に出てくる椅子が今でもスペインやモロッコで今でも作り続けられ、使い続けられていることなどを知り、とても得ることの多い仕事をすることが出来ました。感謝しています。
『私は、中学生の頃から、〈ゴッホの椅子〉が欲しくて欲しくてたまりませんでした。とは言え学生ですから、そう簡単にオーダーメイドで注文できるほどお金に余裕があるわけはなく、「いつかあの椅子を自分の部屋に置きたい」と、1つの夢として抱いておりました。 しかし来月大阪でゴッホ展が開催されることを知り、就職が決まった自分へのご褒美として、あの椅子が欲しい!と考えました。そしてインターネットであれこれ調べていたところ、山形さんのホームページに出逢いました。 ゴッホの椅子を忠実に再現して作っていただけないでしょうか。』

※ご本人の了解をいただき、メールの内容を掲載させていただいております。

手仕事の値段について
私の作る椅子は、特にその中でも小径木丸太いすは、時間さえかければ誰にでもできるものです。作り方のポイントさえマスターすれば、その人によって感性の趣くまま作業を進めていけば、きっと面白いものができるはずです。材料は公園で枝払いした物でも、太ささえあれば十分に使えます。また、川へキャンプに行った時にでも、流木を拾ってきて使っても面白いものができると思います。とてもとても楽しい作業です。
仕事として使う量となるとかなりたくさんなので、山でまとめて買い、運び、皮剥きし、虫に喰われないよう、割れが入らないように養生して、家屋の中で乾燥させ、細いもので一年ぐらい経つとやっと材料として使えるようになります。その内でちょうどよい太さの椅子の脚として使える乾燥材と言うと、5割くらいになってしまいます。
部材の加工のことから言うと、そろった材料ではないので、現物合わせでそれぞれ寸法を取って加工します。機械を使うのは、粗加工までで、あと仕上工程は、塗装、座編みも含めて全て手作業です。機械を使うことで大量に効率よく生産することはできません。逆に手仕事でしかできない仕事をするというのが、少人数の工房が大手メーカーに太刀打ちできる点です。
このへんの違いを分かっていただき、その手間にお金を払ってやろうかという方が買ってくれるのだと思っています。木材に関してはもちろん、い草(七島い)は輸入物がほとんどという中で、私は100%国産物を使用しています。遠くから運んできて作るほうが安く何でもできるおかしな現代の仕組みですが、本来なるべく近くで手に入れたもので物を作ったほうが、エネルギー面からも、旬という面からも一番自然な形で、無理なく永続できることだと思います。こんなところから私の作る家具の値段はでてきます。
日本の自然環境は、木が育つのにとても恵まれた条件がそろっていて、パルプチップを取るために皆伐し、丸はげにされてしまった山でも、三年もすると自分の力で回復し更新していく力を持っています。(植林された山は例外ですが)「木に触れていると不思議と心を癒される」とよく言われますが、そんなふうに恵まれた環境で無理なく育った樹を材料に使った家や家具だからなのでしょう。ひとりでも多くの人に、木の持つすばらしさ、やさしさを感じてもらいたい。そんな気持ちです。